特集

街の魅力を可視化するグリーンマップ
コミュニティ・デザインの新しいツール

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■世界で展開する地域環境発見プロジェクト、グリーンマップとは?

グリーンマップとは、1992年にニューヨークの環境デザイナー、ウェンディ・ブラウアーさんによって提唱された、一般市民の手によって身近な環境を世界共通のアイコン(絵文字)で表した地図を作る活動。市民やNPOによる自主的な活動を中心に広まっていき、現在では世界中で約40カ国、250以上の地域で作られている世界規模のプロジェクトになっている。日本では97年の地球温暖化防止京都会議を契機に京都で最初に作られ、現在は函館、世田谷、愛知、広島など30以上の地域で作られている。グリーンマップ・システムには"マップメーカー"として市民、NPO、学校の先生、行政、企業など様々な立場の人が登録し、各地域で活動を行っている。

「グリーンマップ」という名称だが、単に樹木や公園などの自然という意味の環境だけではなく、アートスポットや史跡などの文化面、自然食品店といった生活面、ゴミの不法投棄といった環境汚染面なども含めた広い意味での環境をアイコンとして地図に表す。アイコンを使うことで言語や年齢、国籍に関係なく一見して地域の情報がわかるのも特徴だ。マップ作成の手順は、フィールドワークで街を歩き身近な環境を再発見し、それをワークショップで共通の地図の中にアイコンとして表していくというもの。

アイコンは基本となる世界共通のものが125種類あり、エコ農業・グリーンビジネス・代替交通・クリーンエネルギー・汚染などのカテゴリーに分かれている。基本アイコンにない地域独特の情報については各地域でオリジナルのローカルアイコンを制作して登録することができることもユニークな点だ。

2002年には日本のグリーンマップメーカーの連携をはかる目的で「グリーンマップ・ジャパン」が設立された。それぞれの地域でどのようにグリーンマップを作っているのか、定期的に情報交換をしている。webサイト「グリーンマップ・アトラス」では持続可能な地域社会づくりを目指す人に、グリーンマップづくりの背後の生き生きしたエピソードを紹介している。第1号ではアジアと北米の10カ所のストーリーを見ることができる。

グリーンマップ・ジャパン グリーンマップ・アトラス 日本語版
GREEN MAP グリーンマップのアイコン グリーンマップのアイコン 京都グリーンマップ

■デザインからコミュニティの構築を考える

フリーのライター・プランナーとして活動する渡辺保史さんは、函館のグリーンマップ制作プロジェクト「ハコダテ・スローマップ」を主宰している。函館の旧市街地を中心に、都市に残る自然や歴史的建築物のリノベーション事例など、約200カ所の情報を掲載したマップをつくり、市内の観光案内所や公共文化施設、カフェなどで無料配布した。

ハコダテ・スローマップ

渡辺さんとグリーンマップの出会いは、1999年の秋に多摩美術大学で開かれた情報デザインの国際会議「ビジョンプラス7」だった。この会議のテーマは「情報デザインからコミュニティの構築を考える」。実践と学問の領域を超えた人々が集い人間社会の「より良いコミュニケーションと、そこからうまれる活動的なコミュニティづくり」を考える会議だった。ここで初めて出会ったグリーンマップに、ある種のカルチャー・ショックを受けたという。デザインという専門的領域を、市民が主体になって社会の現場で有効に活用できる新しい道具をつくりだしていくプロジェクトでもあるグリーンマップに「情報デザイン」の可能性を強く感じたのだという。

『情報デザイン入門』(平凡社新書・渡辺保史著)サポートサイト
ハコダテ・スローマップ マップの展示風景

■さがす、つくる、つなぐ、コミュニティの新しい道具

今年2月、内閣官房都市再生本部の全国都市再生モデル調査の一環として、「ハコダテ・スミカプロジェクト」を実施した。スローマップづくりのプロセスで得た情報デザインやフィールドワークの手法を応用し、歴史的建造物も多い函館の街並みの再生を「未来の街のストーリーをつくる」ことから考えていくという都市再生ワークショップだ。小学生から大人までさまざまな人々がグループをつくり、地域に住んでいる架空の人を主人公にした未来の物語を考え、街の再生へ向けた提案をまとめて発表するというワークを通じて、「普通に街で暮らしている人自身が、まちづくりの主役なのだ」ということを参加者全員が実感できるプロジェクトになったという。

ハコダテ・スミカプロジェクト (函館市都市建設部)

渡辺さんは、未来のコミュニティをテーマにした研究開発事業体「智財創造ラボ」の研究員でもある。同ラボは、連携と協働のための活動・道具・環境をデザインし、そこから生まれる関係価値=<智財>の社会化を目指す研究プロジェクト。ここでこの夏、渡辺さん達は、情報の「つながり=文脈(Context)」を目に見える形で表現する「Context Viewer」というインターネットのシステムを開発した。このシステムは、ネット上で自分と他人の関心事を共有できる「関心空間」というコミュニティウエアをベースにしたもので、現在実験サイト「ハコダテ・スローマップ」で実際に操作できる。スローマッププロジェクトで集めた110程度のキーワードと写真、その説明文が掲載されており、クリック操作によりキーワード同士のつながりが一目でわかる情報マップの画面になる。ここでは「オンラインのワークショップとでもいうような情報共有の実験」が継続している。

ハコダテ・スローマップ (関心空間・Context Viewerによる試験公開版) 智財創造ラボ
ハコダテ・スミカプロジェクト 智財創造ラボ Context Viewer

■グリーンマップ横浜のフィールドワークとは?

横浜でグリーンマップを作っているのは株式会社ベイシス代表の高橋晃さん。前述の「ビジョンプラス7」に参加した高橋さんはグリーンマップのビジョンに強く共感、その場でウェンディさんに「横浜でやります!」と意思表明した。「アイコンの魅力と、市民がつくる地図というシステムがとてもわかりやすい形にまとまっていると思った」。長年デザイナーとして地図やCI(企業のロゴマーク)をデザインしてきた高橋さんは2000年に「グリーンマップ横浜」を設立。当初は少人数・短時間で完成させようと考えていたが、活動をするなかで多くの人が参加して時間をかけてつくられるべきものだと考えるようになったという。「デザイナーが主体となり締切に向かって作る業界のお仕事のようなやりかたではいけない。専門家が作る地図ではなく、地域の住民自身が作る地図にしなければ意味がない」。2002年9月に馬車道の旧富士銀行の2階に開設された市民活動共同オフィスに月額1万円の使用料を払ってグリーンマップ横浜のデスクを設置した。多くの人にこの取り組みに関心を持ってもらい、より開かれた参加型のプロジェクトとしてマップづくりを推進していこうという意図からだ。

グリーンマップ横浜は共同代表の高橋さんを中心にコアメンバー10名、会員約40名によって運営されている。参加している人はデザイナーやエンジニア、まちづくりプランナー、グリーンドクター、学生や主婦、一般の会社員など様々だ。まずは高橋さんが活動している中区から活動を開始、フィールドワークとワークショップを重ねた。「グリーンマップ作りの土台はフィールドワークとワークショップ。地図を持って実際に街を歩くことで今まで見過ごしていたものが発見できる。ワークショップで他の参加者の意見を聞くと自分にない視点が得られる」。観光コンベンションビューローから平成15年度の横浜観光プロモーションフォーラム認定事業にも選ばれた。今年5月には日本建築家協会神奈川とコラボレーションし、関内地区の歴史的建造物などを見て回り、6月にBankART1929馬車道で「建築Week 2004」に成果を発表した。街を歩くフィールドワークによりデータが集まり、現在はマップシステムの作成に取り組んでいる。

グリーンマップ横浜 日本建築家協会神奈川
グリーンマップ横浜 グリーンマップ横浜共同代表 高橋晃さん フィールドワークの様子 ワークショップの様子

■コミュニティ・デザインー「他人ゴト」から「自分たちゴト」へ

現在グリーンマップ横浜ではデータベースと連携したマップシステムを開発している。ユーザーが自分で地図上にアイコンを配置し、情報を書き込んだりコメントをつけたりすることがブラウザ上で簡単にできるようなシステムだ。「一方的ではなくフィードバックが起こるような仕組みにしたい」。高橋さんはユーザーが自分の手でマップを作り、コミュニティを育むようなシステムが必要だと語る。年明けまでにシステムを構築し、まず中区のグリーンマップをインターネットで公開する予定だ。完成したマップシステムは全国のグリーンマップ団体に無償で、市民団体や企業には安価で提供していく計画だ。すでに、この管理者が簡単に情報をサイン更新できるマップシステムは、横浜・元町商店街のHPに導入されている。「まちづくりのために住民、行政、企業がコラボレーションしていくことが求められている。そのための有効な協働のツールとして役立ててもらえれば」と高橋さんは語る。

横浜元町商店街

9月26日には「横浜市市民活動共同オフィス発 連続講座」として「グリーンマップ・シンポジウム 2004 街がみえてくる。」がBankART1929馬車道で開催される。この講座では、午前中は歴史的建造物が建ち並ぶ馬車道から日本大通り界隈のフィールドワークと地図づくりワークショップが、午後には基調講演、パネルディスカッションなどが行なわれる。基調講演には多摩美術大学助教授で「グリーンマップ・ジャパン」共同代表の堀内正弘さんが世界の多様なグリーンマップを紹介する。また「ハコダテ・スローマップ」の渡辺保史さんが情報デザイン・コミュニティデザインの視点からグリーンマップを語る。その後のパネルディスカッションでは「未来へつなげるまちづくり」と題して堀内さんと渡辺さん、NPO法人「I Loveつづき」副理事長の岩室晶子さん、NPO法人「まちづくり情報センターかながわ」事務局の川嶋庸子さん、「横浜市民メディア連絡会」事務局長の原聡一郎さんらが新しい地域コミュニティや協働のあり方を模索する。最後にグリーンマップ横浜のプレゼンテーションを行い、完成間近の「グリーンマップ横浜マップシステム」のプロトタイプを紹介し、活動の近況報告をする。フィールドワークは先着40名、講演会は先着100名までで、参加費は無料となっている。

グリーンマップ・シンポジウム 2004 街がみえてくる。 NPO法人 I Loveつづき NPO法人まちづくり情報センターかながわ 横浜市民メディア連絡会

高橋さんはwebデザインの経験で培った、ユーザーやコミュニティの目線でモノゴトを見ていかなければならないという考えを、グリーンマップで実践したいと考えているという。「グリーンマップ横浜は活動を通じて情報共有や情報資産の創造を行い、それらを『共有財』として資産化することを目指している。横浜に住む市民自身が様々な視点から街を見つめ、環境を再発見するアナログな部分と、その情報をマップシステムに組み込んでデータベース化するデジタルな部分の融合が横浜の特徴」。中区に続き、港南区、港北区、都筑区の住民がグリーンマップの作成に名乗りを上げている。まずモデルとなるマップとシステムをつくり、それを各地域へ提供していくことで新しく参加した地域はより簡単にマップづくりにとりかかることができる。

2005年に万国博覧会が開催される愛知でもグリーンマップのプロジェクトが動き始めている。「持続可能な地域(エコ・コミュニティ)づくりのための道しるべ~あるものさがし、ないものづくり」をキャッチフレーズに、愛知県全域のグリーンマップを作成し、愛知パビリオンに展示するプロジェクトだ。

愛知グリーンマップ2005

グリーンマップづくりの取り組みは、その地域に関心がある人々に自分たちの暮らす街の環境や魅力を再認識するきっかけを与える。地域の価値ある情報を収集、編集、デザインし、たくさんの人と共有していくという経験により、まちづくりは「他人ゴト」から、より「自分たちゴト」に近づいていく。インターネットの活用でますます進化を遂げる横浜のグリーンマップの今後の展開に期待したい。

「建築Week 2004」での成果発表 グリーンマップ展示の様子 グリーンマップ・シンポジウム 2004 街がみえてくる。 グリーンマップ展示の様子 フィールドワークの様子
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