特集

「コラボレーションが街を元気にする」
ヨコハマの「協働」ストーリー(1)

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■なぜ今、「協働」なのか?

少子・高齢化の進展、経済の成長力が低下して、税金の収入の増加が見込まれない、そして、社会・経済環境が変化しても自らを取り巻く社会システムが変化しないことから感じられる閉塞感、この時代を中田市長は、非「成長・拡大」の時代と呼ぶ。横浜市は成長・拡大を前提としたものの考え方や社会の仕組みを見直し、新しい価値観に基づいた都市経営のシステムづくりに取り組んでいる。市政運営の基本理念として「民の力が存分に発揮される社会」の実現を掲げている横浜市は、2002年10月、市民が満足する質が高いサービスを提供していくためには、市民と行政が共に課題解決に向けて協力し合うことが必要だという認識のもと、市民活動共同オフィスを設置し、協働の実験・検証を始め、新たに「市民協働推進事業本部」を設置し、全庁的な協働推進の体制を構築。公益の増進をミッションとする、市民活動団体や企業、各種団体など、様々な「民」との力がフルに発揮されるための環境の整備、提案型協働事業や市民活動共同オフィス運営などによる事例を積み上げながら、様々な主体との協働推進に取り組み始めた。

横浜市市民協働推進事業本部 横浜市都市経営局 エンジンルーム 都市経営の基本方針
横浜市市民活動共同オフィスが設置された旧富士銀行ビル 横浜市市民活動共同オフィスNEWS!

■経験の蓄積と検証で進化していく「協働推進の基本指針」

横浜市は今年7月、市民の意欲・発想・実行力が活きる協働の都市づくりをめざして、「協働推進の基本指針」 を策定した。この指針は、1999年に提唱された「横浜コード」(横浜市における市民活動との協働に関する基本方針)の原則に則って、さまざまな組織が行政と協働して地域課題を解決していくにあたって、協働の考え方や進め方などへの理解を深め、共通認識をもって協働をすすめていくために策定された。

協働推進事業本部 協働推進課の荒川課長は、基本指針について、「公的サービスを担う、市民活動団体・NPO、公益法人、自治会町内会、企業などのさまざまな団体と行政が連携し、新たな仕組みや事業を創り出す「協働」というスタイルを推進していくためのバイブルのようなもの」という。

荒川課長は「協働はこれまでも行われてきたが、今日の多様な課題に対応していくため、時代に合った新しい協働に向けて動き始めたところ。協働の土壌や基盤づくりが大切だと認識している。何か一緒にやろうとすると相互信頼が重要。行政と市民が一緒に事業を企画することで、行政マンと市民双方に『気づき』が起こり、信頼関係も出来てくる。協働はコミュニティづくり、つながりや信頼関係づくりが最初の一歩。それによってお互いの認識がかわり、課題解決に結びついていくのだと感じている」と語った。

横浜市市民協働推進事業本部 協働推進の基本指針 横浜コード(横浜市における市民活動との協働に関する基本方針)
「協働推進の基本指針」

■協働を考える実験場、市民活動共同オフィスの2年間

2002年10月、中区馬車道の歴史的建造物である旧富士銀行内に、横浜市市民活動共同オフィスがオープンした。同年4月にスタートした中田宏市政は、横浜市の政策の柱である「民」の力を最大限に発揮させる「協働」への取り組みのスタートとして、横浜らしいシンボルになる歴史的建造物を拠点に選び、暫定利用を開始した。公募で選ばれた14の市民団体に月額1万円で活動の拠点となるデスクスペースを提供。「協働」について市側と一緒に検討・検証をしていくことが選定の条件に含まれ、利用期間は1年間という設定だった。

横浜市市民活動共同オフィス

市民活動共同オフィスでは、「新しい都市経営の取り組み」として、市民の力を結集したまちづくりを進めるために、協働を考える「協働のありかた研究会」が2002年12月にNPO・市民活動団体、企業人、行政職員が集まり結成され、「仕組み」「情報」「コミュニティビジネス」「評価」をテーマとした4つの分科会において、市民と行政が協働して市民活動と行政の協働のあり方について議論と研究を進めてきた。その集大成として、2003年3月15日にはシンポジウム「市民と行政で創る"HOT CITY"よこはま」を横浜市と共同で開催し、「横浜からの協働のアイディア」を発信。また、2003年11月28、29日に大桟橋で開催されたシンポジウム「コラボレーションフォーラム横浜」に主体的に関り、協働による都市づくりを検証した。そして、2004年1月28日に「横浜市協働推進の基本指針第一次案(骨子)についての意見・提言書」をまとめ、横浜市に提出した。

協働のあり方研究会よこはま
横浜市市民活動共同オフィス シンポジウム「市民と行政で創る 市民活動共同オフィスのキャラクター

■共同オフィス第2期、「市民活動共同オフィス発・連続講座」

2004年の5月から10月にかけて、BankART1929馬車道ホールを舞台に「横浜市市民活動共同オフィス発・連続講座」が開催された。全12回の連続講座は、市民活動共同オフィス第2期の入居11団体と管理運営団体である市民セクターよこはま、BankART1929、そして横浜市の協働により開催され、延べ1.500人の市民がセミナー、ワークショップ、フィールドワークなど様々な形で参加した。市民活動共同オフィスが「協働の実験・検証の場」としてスタートして2年目の後半、この企画は自然発生的に生まれ、実行委員会が組織された。それまでも月に1回の入居団体連絡会や管理運営団体による個別ヒヤリングなどで、交流や意見交換が行われてきたが、共通のテーマであるはずの「協働」については暗中模索の状態だった。それでも、少しずつ信頼関係をつなげ「協働」の実践に顔の向きを揃えていった。

BankART1929

BankART1929が旧富士銀行で活動を開始したことも大きな刺激になった。様々な活動を行っている入居団体の拠点のすぐ隣に、さらに異質な、アートスペースが設置され、アーティストやクリエイターたちのダイナミックな活動に「表現」への欲求が高まった。「それは、たぶん『協働』というのが、魅力のあるテーマだということなんだと思います」連続講座実行委員長を務めたグリーンマップ横浜の高橋晃さんは言う。「市民活動団体には、地域の問題解決をめざすタイプや、テーマ性を持って広域で活動するタイプなどがありますが、共同オフィスでの交流を契機に、お互いにクロスする部分での「協働」が重要だということに気付いたのです」。 横浜市市民活動共同オフィス発・連続講座 BankART1929 グリーンマップ横浜

横浜市市民活動共同オフィス発・連続講座 横浜市市民活動共同オフィス発・連続講座 横浜市市民活動共同オフィス 共同オフィス内のブース

■入居団体どうしの協働の実践からみえてきたこと

多くの入居団体は共同オフィスに入居して、自らの活動範囲が広がったと言う。紛争後平和再建と民主化支援をテーマに、アジア各国で選挙監視活動を行っている特定非営利活動法人インターバンドは、連続講座でワ-クショップ「平和を創ろう」を「キッズゲルニカ」の協力のもと、行った。「キッズ・ゲルニカ」とは、ピカソの「ゲルニカ」と同じ大きさの3.5×7.8メートルのキャンバスに、世界各国の子どもたちが平和をテーマとした絵を描くというプロジェクトだ。馬車道ホールで1枚の絵を仕上げ、インドや東ティモールの子どもたちが描いた絵とともに展示された。インターバンド事務局長代行の松浦香恵さんは、「国際協力とは、実は自治とのつながりが大きいのです。私達の活動のそういう面を日本の教育、総合学習に還元したいと思った」と語る。共同オフィスに入居して、地域に密着した活動を行っている団体と交流して視野が広がったという。今後もトリエンナーレ等にからめて平和とアートをテーマとした活動を継続して行うつもりだ。また、JANSA(日本における小型武器規制削減市民ネットワーク)の設立委員として、全国のネットワークづくりを横浜から発信することになったのも、共同オフィスへ入居したことが大きな要因となっているという。

特定非営利活動法人インターバンド

DV(ドメスティック・バイオレンス)被害者の支援活動を行っているウィメンズネット・サポートは連続講座のシンポジウムで、JIA日本イラストレーター協会との協働による「Stop DV Charity Exhibition」を同時開催した。シンポジウムでは同じ入居団体で演劇によるまちづくりに取り組むウエスト・ハウスによる、DV被害とその支援を描いた演劇を公演し好評を博した。このようなスタイルのシンポジウムは今回が初めてで、共同オフィスに入居したからこそ生まれた協働の発想だと言えるだろう。今後は日本の各地で開催し、定着させたいと考えているという。 ウィメンズネット・サポート JIA日本イラストレーター協会 ウエスト・ハウス

10月2日に行われた、連続講座第12回にあたる協働企画「連続講座EXPO」には、第1期入居団体、管理運営団体をはじめ、市民協働推進本部長、担当職員、市民活動推進委員の方々も参加して、結果的に横浜市市民活動共同オフィスの閉幕を飾る式典となった。「それぞれの団体がEXPOに『感動』を持ち込みました」と語る実行委員長の高橋さん。「それぞれの団体は『感動』を糧に活動しているということをあらためて実感しました。そして、コミュニケーションこそ市民活動の基本的なスキルだということ。さまざまな形のコミュニケーションがあるということを感じて、新鮮な気持ちで自分の活動を考えることができました」それぞれの役割とスキルがやっと分かってきたところで、共同オフィスの2年間の「協働」の実験と検証が終わる。「協働」は、単に計画して実行するということでなく、精神的な高揚と、さらに新しいものを生み出す循環が形作られなければならない。ここで活動した21団体は確実に次のステップを踏み出している。共同オフィスがステップボードとなって、横浜市全体に波紋のように広がってゆく、そんなイメージが見えてくる。

「キッズ・ゲルニカ」 「キッズ・ゲルニカ」 連続講座EXPO 「Stop DV Charity Exhibition」 グリーンマップ横浜シンポジウム グリーンマップ横浜シンポジウム

■市民活動共同オフィスと旧富士銀行ビルの今後

2002年10月、3年以内の期間限定でスタートした「市民活動共同オフィス」。今年7月、市がかねてから検討していた、映像文化施設としての本格活用の計画が具体化し、東京芸術大学の大学院映像研究科が来年4月に開設されることが決まり、市民活動の拠点としての暫定活用は10月9日に終了した。

関係者は「文化芸術で都心部を活性化しようとする横浜にとって、東京芸大の誘致は意味がある。芸大との駆け引きの中でこのタイミングを逃して、芸大が他の都市に学びの場を開設することになれば、長い目で見ると市民への損失になるだろうという判断で、共同オフィスを終了させても誘致することになった」という。

東京芸大が横浜に新大学院「映像研究科」新設 横浜市、芸大映像研究科開設で補正予算案4.69億円
旧富士銀行ビル

■横浜の市民活動の新しい歴史が始まろうとしている

現在、共同オフィスの入居団体、管理運営団体、市民活動実践者、有識者により、「新たな市民活動共同オフィス」 に関する 意見交換が積み重ねられている。検討の結果、「市民活動共同オフィス」の機能は、桜木町1丁目のクリーンセンタービル内に整備する方向だという。同ビル4階・5階には、横浜市が2000年に設置し、市の外郭団体である横浜ボランティア協会が運営する「横浜市市民活動支援センター」という市民活動のサポートを目的とする施設がある。この支援センターについても、果たすべき役割と機能を確認するとともに、市民主体の運営体制等について検討がおこなわれ、来年度より新しい形で運営が行われる計画となっている。

横浜市市民活動支援センター 横浜市市民活動支援センターの運営のあり方検討委員会

「協働」を実践していく上で大切なことは、価値観や手法の異なる組織が、一つの目的に向かって動いていく時に起こる、さまざまな意見の食い違いや衝突を乗り越えること。お互いの状況の違いや、得意不得意な部分を理解し、いいところを引き出し合うような関係で協働に取り組んでいくことが信頼関係を強化していく。市民、役所の職員、地域の企業などがお互いの職場や生活の場である地域のことを「他人事」と「自分事」の間にある「自分たちごと」として考えて、地域社会の課題解決に向けて行動するというスタイルが、横浜から全国に向けて発信されていくことを期待したい。

ミーティングの様子 旧富士銀行ビル
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