「商学連携」という言葉をご存知だろうか? 産学連携というと理系の学部と企業が技術開発を通して連携するというイメージが強いが、大学とビジネスを結びつけるのは技術開発だけではない。産学連携の中でも商店街と大学・専門学校が連携する商学連携が注目を集めている。
生活者の消費行動の変化で衰退が進行している商店街の活性化は全国的な課題となっている。商店街には地域を活性化するためのアイデアや人材を外部から取りいれたいというニーズがある。一方、少子高齢化などにより転換期を迎えている大学側には、より地域と連携した事業を行っていくことや、机上の学問のみならず実社会の経験を伴った学びを積極的に取り入れたいというニーズがある。その両者のニーズをマッチングし、商店街と大学等が協働することで商店街を活性化するという、商店街をテーマとした商学連携という新しい動きが見え始めている。
横浜市経済局は、2004年4月に「商店街活性化商学連携支援事業」として、商学連携事業の活動にかかる費用の3分の2(限度額50万円)を負担する補助制度を策定した。すでに野毛商店街協同組合、二俣川駅南口商店会、瀬谷区商店街連合会の3者が補助対象に選ばれている。商学連携の横浜での取り組みについて、横浜市経済局商業・サービス業課の片山宏之さんは、「補助制度を策定し、手を挙げて商学連携に取り組むところを待つという受け身の姿勢だけでは、毎年継続して続けていくためのスキーム作りとしては不十分だ。昨年、各商店街にアンケートを実施したところ、『もっと勉強したい』、『相談できる場がほしい』という声が目立ち、より商店街と大学を結びつける仕組みが必要だと感じた」と語る。
商店街活性化商学連携支援事業そこで経済局は2004年9月に市内の大学、専門学校、横浜市商店街総連合会を参加メンバーに「横浜市商学連携ネットワーク」を設立。12月15日には横浜の商店街関係者と大学関係者など約90名を集めて「平成16年度 商学交流フォーラム」を開催し、商店街と大学・専門学校の商学連携の取組みの事例を紹介した。「活性化のために何をすればいいのか、商店街は手探りの状態。商学の両者の出会いの場をつくり双方が学びあうことで、課題解決につなげることができる」。今後は、大学との連携を推進するために、より多くの商店街へ積極的にアピールしていく方針だ。片山さんは、「学生は我々が想像もつかなかったような斬新なプランを出してくる。例えば、いまある空き店舗を活用し、商店街、学生や教授、NPO、街の生活者が一緒になって、なにか新しいものを生み出していければ」と展望を語る。
12月15日に横浜情報文化センターで「平成16年度 商学交流フォーラム」が開催された。神奈川大学経済学部の中田信哉教授による基調講演のあと、事例紹介として瀬谷区商店街連合会や和田町商店街、全国商店街ネットワークなどの取組みの報告、有識者によるパネルディスカッションが行われた。ディスカッションで、瀬谷区商店街連合会企画部長の渡辺薫氏は「商店街には高齢化や後継者不足など組織上の問題点がある。地域外からイベントに参加する人をいかに地域に根付かせるか、また地域活性化を通していかに商店の売り上げ増進につなげていくかが課題だ」と商店街が抱える課題を語った。それに対し、横浜国立大学大学院 工学研究院の高見沢実助教授は「地域と連携した取り組みは大学にとって刺激的であり、学問の発展や学生の教育という面でも大いにメリットがある。今後はこういった取り組みが『地域交流科目』として学内単位として認定される仕組みを作っていきたい」と大学側の立場から商学連携のメリットを語った。
早稲田大学の学生でありながら商店街ネットワーク顧問研究員でもある木下斉氏は、学生の立場から「近年は全くのボランティアではなく有償で活動するケースや、NPOを作って取り組むケース、ゼミがきっかではなく自分から商店街と関わっていくケースなどが見られ、学生が積極的に地域に参加している」と述べ、またコーディネーターとして多くの商学連携に携わった経験から、「商店街には大学との連携に消極的な方も少なからずいる。時間がかかるとモチベーションが下がってしまうため、リーダーシップを持ってプロジェクトを引っ張っていく人材が不可欠。他の地域の人に自分の地域の取り組みを自慢できるような場を設定することも大切だ」と実体験を基にした意見を述べた。最後にディスカッションのコーディネーターを務めた横浜商科大学の佐々徹教授は「戸塚区商店街連合会の山内会長がおっしゃられた言葉で、良い商学連携の事例には『若者、よそ者、馬鹿者(一生懸命取り組む人)』といった人材がいる、という言葉があります。大学にはそのような人材が豊富にあるので、ぜひ活用してください」と述べ、商学連携を積極的に推進していくことを呼びかけた。
商店街ネットワーク 平成16年度 商学交流フォーラム商学連携を積極的に推進している佐々徹教授に、商学連携による商店街振興が始まった経緯を聞いた。佐々教授によると、横浜商科大学の学生が実行委員会として運営した「横浜・商店街イベントプランコンテスト2004」は、学生が自発的に企画したものだという。「学生が自主的に行うサブゼミの中で、机に向かっての勉強ではなく学生が街に出て、地域の人たちと一緒にプロジェクトをしていこうというアイディアが出た。横浜商科大学商学部4年生の桜庭岳宗くんが考えた、大学生を対象にした商店街活性化プランのコンテスト企画を横浜TMO(関内・関外地区 Town Management Organization)に紹介したところ、ちょうど商学連携ネットワークの設立を検討していた横浜市経済局や、野毛商店街協同組合事務長の宮川さんが興味を持ってくれ、第1回を野毛で実施することになったのが『野毛サプライズ!』なんです」。
「「これまでの産学連携は理工系学部が中心で、商学部・経営学部はあまり参加してこなかった。商学部・経営学部は工学部や建築学部とは異なり、その学部でなければ学べない特別な技術というモノはない。だからこそ商学部・経営学部の学生は実際の街をフィールドとして実社会の中で経験を積んでいくことが大切だ」。次回からは専門学校にもより積極的に声をかけて規模を拡大し、商学連携の「ヨコハマモデル」となるようなものにしていきたいと語る。
11月、大学生や専門学校生を対象に「野毛サプライズ!『キミのアイデアで驚きのイベントを』~横浜・商店街イベントプランコンテスト 2004~」が開催された。このコンテストは野毛地区を舞台に、商店街の方と学生たちが一緒になって実施するイベントのアイデアを募集し、優勝プランに賞金20万円を授与するというもの。イベント開催期間は1週間から10日間、総予算は100万円以内で、来年3月までに開催することを念頭に置いたもの。野毛の商店の活性化につながる話題性のあるイベントプランを、地域の歴史や特性をうまく活用して提案してほしいといいう実行委員会の呼びかけに対して、横浜国立大学、横浜市立大学、横浜商科大学、関東学院大学、早稲田大学、慶応義塾大学、立教大学、国士舘大学、多摩大学、桜美林大学の10校の学生からプランが応募された。
12月12日に野毛地区センターで応募された12のプランの発表会・表彰式が開催された。審査の結果、横浜国立大学の学生たちが考案した、世界記録を狙う参加型イベントと飲食店を独自の基準で評価する仕組みを用いたプラン「ChalleNOGE」が優勝プランに輝き、2005年3月に野毛地区で実際に開催されることが決定した。また準優勝は多摩大学の学生が考案した、立ち飲み通りや買い物通り、大型野外ギャラリーなど「道」を使ったプラン「横浜GEON-MATSURI」が選ばれた。
このコンテストは学生と野毛商店街協同組合、野毛飲食業協同組合が連携し、横浜市経済局、横浜商工会議所がサポートする、商・官・学の連携プロジェクト。コンテストのアドバイザーでもある佐々教授は、「惜しくも賞は取れなかったものの、関東学院大学の野毛の路上に「縁台」を設置するプラン『野毛クルーズ』や、慶応義塾大学の野毛の町の歴史を物語る写真を街頭にパネル展示するプラン『野毛ノハンセイキ』など、それぞれ個性的でおもしろいプランが集まった」と総評を語る。商店街の方からは優勝プラン以外も実現させたいという声が上がったという。佐々教授は同コンテストを恒例化し、より深い商学連携を生み出すための入り口としていきたいと語る。「国大や市大といった地元の大学以外にも多くの大学の学生が参加してくれたことがうれしい。プランを作るために野毛を訪れ、地元の方と話し、街の歴史を知る。その行為自体がすでに商店街の活性化の萌芽となっている」。
横浜市経済局 横浜商工会議所 「野毛」の魅力向上を、学生イベントプランコンテスト優勝プラン、「Challenoge」を企画したのは横浜国立大学の大場潤一さん、松本純さん、島村賢太さんの3人組だ。大場さんは地元企業の経営課題をテーマに学生が独創的なプランを提案する「神奈川産学チャレンジプログラム」にも参加し、横浜信用金庫の横浜のキャッチフレーズ「ジェリービーンズ」と関連したHamapの作成と、マップを利用した「Hamapラリー」を提案し、3チームのプランの中から優勝した経験を持っている。大場さんは、「活性化するには地元の商店や住民の方が積極的に参加できるイベントにすることが大切。継続性や話題性が高く、野毛に来るお客さんも参加できて全国から注目されるようなイベントが必要」と語る。
大場さんたちのプランは「Challenoge(Change+Challenge+Noge)」をキーワードに、ギネスブックに載る世界記録を狙う「ビックリレコード」企画と、飲食店を独自の基準で評価する「レストランキング」企画の二本の柱で集客性と経済性の相乗効果を狙うというもの。「ビックリレコード」は地元と来街者が共に一つの記録に挑戦することで大きな感動と一体感をつくるというもので、「野毛大ちぎり絵」や「野毛目玉焼き連鎖」、「野毛大風船団」といったチャレンジイベント。「レストランキング」は野毛の各飲食店からドリンク、野菜料理、肉料理、デザートの4ジャンル別にアイデア料理を募り、おいしさ(おい値)とアイデア(さぷらい値)でお客さんに評価してもらうことで8つのN.o.1をつくるというプランを提案した。
「Challenoge」の具体的なイベントの内容については、今後商店街の皆さんとともに具体的にしていくという。大場さんは、「世界記録を狙う催しは他にもいろいろ考えられる。ちぎり絵が予算的に難しいという意見もあり、多くの人に参加していただき、アイデアや他の企画もどんどん出してもらいたい。『レストランキング』についても、野毛は居心地の良さから常連が通う飲み屋街であることを考慮して、雰囲気などの評価軸を入れることも検討しています」と語る。
また、松本さんは早速Webサイト「Challenoge ブログ」を立ち上げた。一緒にイベントについて考えたり運営に参加してくれる人の募集を開始するなど、インターネットを活用した情報発信を始めている。
Challenoge ブログこの9月に設立された「横浜商学連携ネットワーク」では、商学連携の取り組みに関心がある商店街や大学等が、事務局(経済局・サービス業課)を通じてネットワークに参加している商店街や学校に協力を呼びかけることができる。行政が「つなぎ手」を担う、地域にも学校にもメリットがある仕組みだ。学校側が持っている経営・街づくり・情報技術などの専門知識や、学生の発想力・行動力などの人的資源を活用する「商店街の活性化」や「街づくり」の事例が増えていくにつれ、成功・失敗の経験から生まれる「知恵」と「つながり」がこのネットワークに蓄積されていくだろう。地域を元気にするためのアイディアと人材のバンクとなる可能性を秘めた、横浜の商学連携の今後の動きに期待していきたい。