横浜にはフランス映画祭やジャズプロムナードなど、全国から多くの人が集まる文化イベントがいくつかある。その中でも今年注目なのは、現代美術の国際展「横浜トリエンナーレ2005」だ。昨年12月の磯崎新氏のディレクター辞任を受け、後任に川俣正氏が就任することが決まり、この秋の開催にむけて川俣氏の手腕に期待がかかっている。
「横浜トリエンナーレ2005」では、市民やNPO、市内の企業、学校、商店街など、地域のさまざまな人が参加できる仕組みを導入している。既に、横浜市芸術文化振興財団の主催で市民が意見交換する場「横浜トリエンナーレ作戦会議」が3回にわたり開催され、同展を地域から盛り上げていく応援団を生み出すための試みが行われてきた。その流れの中から「YOKOHAMA City ART Network(仮称)」という、誰でも参加できる芸術文化活動の協働ネットワークが誕生し、また市民企画広報チーム「はまことり」やボランティアチームが形成された。「はまことり」はすでに「横浜トリエンナーレ2005・フリンジ」ブログを立ち上げて情報発信を始めている。また、市民と横浜市芸術文化振興財団との共催でおこなう応援事業の公募・実施も行われている。同展をめぐる様々な動きは今後ますます加速していくだろう。
横浜トリエンナーレ2005 「横浜トリエンナーレ2005・フリンジ」ブログまた、今年4月には東京芸術大学の大学院「映像研究科」が、馬車道にある旧富士銀行横浜支店に新設される。2005年度に「映画専攻」、2006年度に「アニメーション専攻」、2007年度に「メディア映像専攻」と3つの専攻を設置し、少人数、実践型の教育をおこなう計画だ。昨年12月2日に映像研究科の教授や募集要項などが公開され、「映像研究科」の専任教員に北野武氏や黒沢清氏など、映画製作の第一線で活躍する8名が就任することが発表された。横浜を舞台に「北野組」の映像撮影の現場が生まれ、学生の現場体験が実現する可能性もありそうだ。
東京芸術大学 大学院映像研究科の開設について芸大誘致によって、昨年2月から旧富士銀行を使用していた「BankART1929馬車道」はこの1月より海岸通り旧日本郵船倉庫に移転し、名前を「BankART Studio NYK」と改め、スタジオ機能やホール機能をより充実させて活動を継続することとなった。拠点が増えて、クリエイティブ系の若者が集まってくることで、周辺に新たなショップやカフェなどの開店なども予想される。
BankART 1929横浜高速鉄道は昨年11月、平成16年度・上半期分の同線の利用人員と収支状況について発表した。それによると、1日平均の乗降客数が「元町・中華街駅」は4万4千人(見込みより1万8千人増)、「みなとみらい駅」は3万9千人(見込みより3千人増)と予想より大きく上回った反面、「日本大通り駅」は1万5千人(見込みより1万7千人減)、「馬車道駅」は2万4千人(見込みより2万人減)と予想の半分程度まで下回った。また、利用者の内訳では定期利用者が36%、定期外が64%で、定期6・定期外4を見込んだ当初計画とは逆転した。通勤需要が当初の予想より伸び悩んだ反面、観光客の利用は予想より多かった。みなとみらい線の駅は開業以来、オープンスペースでの音楽演奏などへの有効活用に取り組んでいるが、2005年もますます公共空間の有効利用が進んでいくだろう。新高島には複合エンターテイメント施設「GENTO YOKOHAMA」が昨年末にオープンし、馬車道は今年、東京芸術大学の大学院の新設やBankART NYKの開設でクリエティブ・コアの側面が強まることから、昨年低迷した馬車道駅・新高島駅の利用者数は今後増加していくものと思われる。
みなとみらい線昨年6月に横浜市が実施した歩行者流動調査によると、JR桜木町駅付近や野毛では歩行者がMM線開通前の2割から3割減となった。その野毛地区では、大学生のアイデアから生まれた「横浜・商店街イベントプランコンテスト2004」で優勝した横浜国大の学生達の企画「Challenoge」が今年野毛で実際に開催される。ギネスブックに載る世界記録を狙う「ビックリレコード」などの集客性と経済性の相乗効果を狙う企画を、3月に8日間にわたって開催することが決定している。また、1986年に始まった恒例の野毛大道芸が、今年で20周年・第30回を迎え、4月23日・24日の2日間開催される。一方、飲食街「野毛」のはしご酒イベント「野毛飲兵衛ラリー」や、大衆文化の担い手達の生の声を伝える雑誌「野毛通信」の創刊などの、古くから野毛を愛するまちの人やお客さん達による、飲み屋のカウンターで生まれるアイディアを実現していく動きにも注目だ。
野毛大道芸公式ホームページ 学生の若い発想で野毛をサプライズ! 商店街を活性化する「商学連携」事情昨年11月、マリンタワーと氷川丸を所有する第三セクター「氷川丸マリンタワー」は、両施設を売却する意向を明らかにした。マリンタワーは1961年に横浜港開港100周年の記念行事の一環として建設されたもので、1991年には最多の年間105万人の入場者数を記録した。しかし、みなとみらいの開発が進むにつれて利用者が徐々に減少、昨年の入場者数は25万人。また、戦前からの長い歴史を持つ氷川丸も結婚式場やレストラン、夏のビアガーデンなど様々な用途に利用され、マリンタワーとともに横浜港の夜景を楽しむ定番観光スポットとして人気を博してきたが、近年は入場者数の減少。同社は03年12月期まで9年連続で赤字を計上、累積赤字は15億円を超え、営業継続を前提に営業権の売却を複数の企業に打診した。同社の親会社である日本郵船は氷川丸を買い取る方向で検討しているという。山下地区に隣接するのはMM線の開通で通行量が2.7倍という増加を記録した地区もあったという元町・中華街エリア。地域周辺の観光客数は増加傾向にあることから、今年は用途転換により再び賑いを見せる観光名所に変わるための大きなチャンスであるとも言えるだろう。
氷川丸マリンタワー横浜市市民局は昨年12月、西区にある結婚式場「老松会館」(エルパイネ)の営業を今年3月末で終了することを発表した。同館は1964年のオープン以来、身近な結婚式場として人気を集めてきたが、年々利用者が減り厳しい経営状態となった。市民局は、民間施設が充実した中で、公的結婚式場としての役割を終えたと判断し、昨年6月に結婚式業務を廃止。現在は多目的ホールや会議室として営業を続けているが、昨年度は施設利用率が26.9%と低迷していることから3月末の閉鎖が決まった。今後の活用法については、同館は老人福祉センター「野毛山荘」と併設していることから、市民の利用・活用を前提に考えていく方針で、早期に方向付けをしていくとのこと。
横浜市老松会館(エルパイネ)今年5月5日には1973年の開業以来32年にわたり営業を続けてきた百貨店「三越横浜店」が閉店する。三越は横浜店、大阪店、倉敷店、函館店などの赤字が続いていた不採算店舗を「構造改革店」と位置づけ改革に取組んできたが、業態転換や店舗改革では採算の回復が図れないと判断し昨年9月に閉鎖を決定した。閉店前には売りつくしセールが開催される予定だ。
横浜三越今年オープンする施設としては、みなとみらい21新港地区に建設される「横浜みなとみらい万葉の湯」がある。総合温泉レジャー施設を運営する万葉倶楽部(本部:小田原市)が約80億円の予算をかけて建設するもので、6月のオープンを予定している。お湯は「湯河原温泉」の同社所有の源泉からタンクローリーで毎日運搬、足湯に浸りながらみなとみらいの夜景を一望できる屋上庭園、横浜港を見渡せる展望露天風呂が楽しめる。また、飲食や宿泊施設に加え、リラクゼーションルームやマッサージ室、エステやヘアーサロン、ネイルサロンなどのサービスも行い総合的な憩いとくつろぎの空間づくりを目指し、「スーパー銭湯なみの気軽さと温泉旅行なみの非日常性」で差別化を図っていく方針だ。料金は大人2,700円、子供1,300円で初年度の利用者数は約100万人、売上高は52億円を見込んでいる。
万葉倶楽部横浜市は昨年4月「文化芸術都市創造事業本部」を新設した。「創造性」をまちづくりのキーコンセプトに据え、文化芸術・経済の振興と、横浜らしい魅力的な都市空間づくりを融合させた新しい都市ビジョン「文化芸術創造都市(クリエイティブシティ・ヨコハマ)」を推進する中心的組織だ。また、市は2004年「横浜市文化芸術都市創造会議」、「映像文化都市懇話会」、「ナショナルアートパーク構想推進委員会」、「横浜都市景観形成研究会」、「横浜都心部における都心機能のあり方検討委員会」、「時代に即した街づくり手法検討委員会」など、関係各分野の専門的知識を持つ民間人を登用して、横浜の未来をデザインしていくための研究会・委員会を複数立ち上げ た。
2005年は、組織された様々な分野の民間人や行政マンの智恵とネットワークで、都市・横浜の新しいマネージメント手法が打ち出されていくだろう。行政、市民、非営利団体、事業者?学校などが、それぞれの得意分野をお互いに認識して、都市の新しい価値や魅力を創造していくための基盤が固まっていく年になりそうだ。
横浜市、「文化芸術都市創造事業本部」を発足 横浜市「文化芸術創造都市づくり」地域再生に認定 横浜市、第1回「横浜市文化芸術都市創造会議」開催 横浜市、「ナショナルアートパーク構想推進委員会」開催 横浜市、第1回「映像文化都市懇話会」開催 横浜市都市計画局、「横浜都市景観形成研究会」を設置 横浜市、「都心機能のあり方検討委員会」を設置 横浜市「時代に即した街づくり手法検討委員会」設置新たな観光スポットやビジネスの舞台として開発が進むみなとみらい地区、異国情緒とセンスが溢れる山手地区や元町・中華街、多様な文化が交差する港町・横浜。近代的で、エキゾチックで、国際的なイメージを持ち、東京ともいい感じの距離にあるヨコハマは、創造的なヒトが生活・仕事をする環境として魅力的だといえるだろう。「創造都市」の実現のためには、柔軟でグローバルな発想も持つ人たちが、共通のビジョンを持ち、開かれたマインドで連携して、創造的な連鎖反応を引き起こしながら既存のシステムを変化させていくことが必要だ。2005年は、創造的な人材がよりたくさんヨコハマに集まり、魅力あるスポットがさらに増え、創造都市「ヨコハマ」の名が世界の都市に発信されていくようになっていくことを期待したい。