オープンからわずか1年半で来訪者が1000万人を突破、リピーター率も6割を超え、数ある横浜の観光スポットの中でも特に勢いが感じられる横浜赤レンガ倉庫。展示やイベントが行われる多目的スペースなどを有する1号館、飲食や雑貨、家具など30以上の多様なショップが入る2号館に分かれている横浜赤レンガ倉庫だが、専任で広報を担当するのは株式会社横浜赤レンガ営業課長の中本紀恵子さん。中本さんは情報発信や取材への応対などのメディア対応、ドラマやCM・雑誌などのロケ対応、商工会の視察や修学旅行生の見学などの視察対応、さらにはホームページの運営と、多岐にわたる業務を一人で担当している。対外的な交渉において窓口となる広報は、まさに施設の顔となる存在だ。
横浜赤レンガ倉庫中本さんは、横浜赤レンガ倉庫の最大の売りは歴史的建造物である建物と、目の前に広がる海や公園といった他にはないロケーションだという。「94年前に建設された当時の姿が残っていて、横浜の歴史を感じながら文化・芸術に触れたりショッピングを楽しむことができる唯一無二のスポットです。開港当時の雰囲気を味わってもらうために、倉庫の外観を邪魔するPOPや旗は出さない、周辺には当時なかった植栽などは置かないなど景観を乱さないように心がけています」。テナントがマスコミから取材を受ける際には立会い、赤レンガ倉庫の歴史の説明に関してフォローをするのも大切な仕事だ。そうすることによって、各テナントの従業員も施設や横浜の魅力について知識を得て、接客する際に生かすことができる。中本さんは5分から3時間まで、どんな長さでも説明できるようにトレーニングしているという。よく通る声で快活に語り、すぐに聞き手を横浜赤レンガ倉庫のファンにしてしまう中本さんは、まさに”動く広告塔”といった感じだ。
リノベーションでアート&ショップへ。甦る港の賑わい「赤レンガ倉庫」今昔横浜赤レンガ倉庫では年に数回のイベントを主催しており、その際にはマスコミ各社にプレスリリースを送る。横浜市民のみならず全国から来てもらえるように、多くのメディアで紹介してもらえることを目標としている。「通常の商業施設と比べると天井が低く暗い雰囲気。でもそれは元々本物の倉庫だったのだから当然のことで、だからこそ他には出せない雰囲気があるのです。やはり実際に施設を訪れてもらわないとこの魅力は伝わらないので、いかに足を運んでもらうかをいつも考えています」。横浜赤レンガ倉庫では、今年2月に角川書店とのコラボレーションで直木賞作家・浅田次郎さんの横浜を舞台にした小説「霧笛荘夜話」をテーマにしたイベントを開催した。このようなコラボレーションなどを通して施設や横浜という土地の魅力を肌で感じてもらう取り組みが、高いリピーター率を支える秘密のようだ。
角川書店 霧笛荘夜話 横浜市港湾局 横浜赤レンガ倉庫オープンから4年目を迎える横濱カレーミュージアムは、今年3月23日に来館者600万人を達成した。2004年は大小合わせて100を越えるイベントを企画したというが、その広報を担当しているのは中川美希さん。イベントの企画づくりから参加し、プレスリリースの作成・配信にWebサイトの更新、イベント現場の進行にも気を配る。横濱カレーミュージアムの広報の基本理念は、「おもしろく話題性がある企画をつくってマスコミに取り上げてもらい、それにより集客を図る」こと。カレーをいろんな切り口から切り取るのはもちろん、「カレーおでん」「カレーカステラ」「カレービール」など普段聞きなれないカレー関連食品を販売して注目を集めている。中川さんは「マスコミが特集を組むようなことを先読みし、時事ネタを盛り込んだ企画を考えることもある」という。愛知万博開幕で名古屋が注目されている現在、名古屋のカレー文化を紹介する『名古屋カレー万博』を開催することでマスコミに取り上げられ、全国の人に施設をPRすることができるという狙いだ。
カレミュー、600万人来館で「600円カレー」提供 愛知万博開幕記念、カレミューで「名古屋カレー万博」特にテレビ関係者などが情報収集に使うことの多い情報誌への記事掲載には力を入れており、そのため2週間に1回はイベント企画を開催しているという。カレーのスペシャリストとしてTVや雑誌の出演も多い同館の井上岳久氏を前面に押し出すなど常にホットな情報を提供し続けている。イベントの9割近くは何らかの形でメディアに取り上げられ、マスメディアを介したパブリシティ戦略が成功している。中川さんは「今年もカレーの時期である夏へ向けて、さらに色々な企画を打ち出していきたい」と意欲を語る。また、横濱カレーミュージアムのWebサイトでは、プレス向けのページに誰でもアクセスしてプレスリリースを見ることができるようにしている。「一般の方もプレス向けの情報を見て、企画の詳細を知ることができるようにしていることも戦略の一つ。ブログなどに詳しい情報を書き込んでいただくことで、ネットを介した口コミ効果も高まります」。マスメディアのみならず、ブログなどのパーソナルメディアで情報を発信している一般人も広報に巻き込み、企画力の強さを存分に生かしている。
横濱カレーミュージアム 横濱カレーミュージアム For Press2003年にスタートしたハマカレープロジェクトは、2004年に「横濱カレーシティ・ムーブメント」として財団法人横浜観光コンベンション・ビューローの横浜観光プロモーションフォーラム認定事業となり、中田宏市長がハマカレー制作委員会名誉顧問につくなど一大プロジェクトに発展した。カレーの名店「ハマカレー」発掘事業では発掘した100店を紹介する「ハマカレーMAP2004」を作成。また、「横浜はカレー発祥の地なのに『横浜のカレー』といって思い浮かぶものがない。ならば作ってしまおう」ということで、『横浜ご当地カレー「ハマカレー」創作事業』として、横濱元町「霧笛楼」の今平茂総料理長を創作料理人とし、料理研究家、スパイス専門家などによるスペシャルチームで、オリジナルの「横浜フランスカレー」を創作。ハマカレーという新たな横浜の魅力を作り出し、シティセールスに大いに貢献している。
ハマカレープロジェクト ハマカレーマップ2004第24回横浜開港祭が、6月1日(水)、2日(木)に臨港パークで開催される。“Thanks to The Port”「開港を祝い、港に感謝しよう」のコンセプトのもと、今年は2009年「開港150周年」に向けてのカウントダウン1年目の年として、更なる港の賑わいを目指している。広報渉外業務を務めるのは、横浜開港祭実行委員会広報渉外本部 本部長の宝田博士さん。「6月2日が開港記念日という横浜にとって特別な日であるということ。何よりもまずこれをPRする必要がある。またウェブサイトでは港のイメージを出して開港祭全体の魅力を伝えています」。「夢のハーモニー」を合唱するイベント「ドリーム オブ ハーモニー」や無料乗船会といった市民参加型のイベントに加え、花火を打ち上げる「スターライトイリュージョン(今年から名称が変更される予定)」などは、今や横浜開港祭の風物詩として定着している。昨年の横浜開港祭は土日を挟んだこともあり、75万人もの人を動員した。
開港祭で千人が合唱「夢のハーモニー」参加者募集 第24回横浜開港祭キャンぺーンスタッフ募集宝田さんが広報活動で特に意識していることは、メディア取り上げてもらい多くの人に知ってもらうここと、また興味を持った人がウェブサイトを訪れた際に開港祭の全容が分かるようウェブサイトの内容を充実することだという。また、「足で稼ぐ」という地道な作業も大切だという。宝田さんをはじめ広報スタッフたちは横浜市内を中心に精力的に協賛企業各社へ出向き、協賛金を集めている。昨年度は横浜各所と渋谷駅でチラシ配りなどのキャンぺーンを行った。「みなとみらい線開通の効果などもあって、東京方面から横浜へ来る人はますます増えてきています。開港祭の魅力を知ってもらうことはもちろん、実際に来場してもらえるように首都圏から1時間もあれば来れる近い場所であることをキャンペーンでアピールしていきたい」と語る。
第24回横浜開港祭広報担当者たちはそれぞれの立場から「横浜ブランド」をPRして集客に結び付けているが、それら横浜の様々な施設やイベントを俯瞰する立場から広報支援を行っているのが財団法人横浜観光コンベンション・ビューローだ。横浜観光コンベンション・ビューローでは観光関連業界・団体等と連携して観光情報を市内観光関係者と共同で発信することに加え、観光都市横浜にふさわしい振興事業を企画・実施し、観光客誘致に取り組んでいる。その中で「オール横浜」での観光プロモーションを推進し、民間主導型事業の創出を支援するため、横浜の観光・コンベンションに携わる意欲ある企業・団体・市民事業者などが参加して2003年9月1日に発足したのが「横浜観光プロモーションフォーラム」だ。2005年3月10日現在、160の企業・団体が会員になっている。
横浜観光プロモーションフォーラム横浜観光コンベンション・ビューローで企画部長と企画広報担当課長を兼務する岡崎三奈さんは、「横浜観光コンベンション・ビューローが扱っている商品は横浜そのものです。モノを売っているのではなく、持っているのは情報のみだから、情報の収集力、発信力、信頼性が重要。横浜をどう見せていくかをいつも考えています」と語る。横浜の様々なイベントを民間事業者の動きと並行してホームページやメルマガ、広報誌などでPRすることで情報発信力を強化し、新聞やテレビ、雑誌、ラジオなどのマスメディアに取り上げてもらえるように支援している。「記者や制作担当と触れる機会が多く、企画に対する反応もわかるのが民間より強い部分。ただPRしてほしいと言うのではなく、この媒体に売り込みたいからつないでほしいというような具体的な依頼のほうがやりやすいですね」。
「横浜はまさに『イベント満開』とでも表現できるほど年間を通してイベントはたくさんある。だがそれぞれのイベントが孤立しては全体に漫然としてしまい、PRするのが難しくなってしまう。複数のイベントをくっつけたり、それぞれのイベントを大きなテーマに関連づけてメリハリをつけていくことで、マスコミが横浜を取り上げやすくすることも自分たちの役割です。今年は6月を『横浜フランス月間・2005』として民間事業者にフランスに関連した企画やイベントの提案を呼びかけています。秋には『横浜トリエンナーレ2005』という大きなイベントがあり、関連して民間が行うイベントをうまくコーディネートして集客につなげていきたいですね。また、イベントが少ない冬期に長期間実施する企画も考えていきます」。
横浜市、2005年6月を「横浜フランス月間」に認定「横浜」ブランドを底上げするためには、様々な立場の人がコラボレーションして新たなイベント企画を作りだしていくことが重要だ。横浜観光コンベンション・ビューローの企画部には開発担当という部署があり、昨年は横濱カレーミュージアムと連携し「横浜カレーシティ・ムーブメント」、アサヒビール株式会社と連携し「カクテルの街横浜」プロジェクトなどの仕掛けを行った。これらの取り組みによって横浜というブランドイメージの強化が図られたと言えるだろう。
カクテルの街・横浜 財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー観光情報サイト横浜市の横浜プロモーション推進事業本部 集客都市プロモーション課は3月23日、平成16年目標としていた、横浜の観光客数年間350万人増加を達成したことを発表した。平成16年の観光客数は、みなとみらい線の開通、新たな観光施設の開業やリニューアルによる集客増などで、3,891万人となり、 平成15年の3,466万人と比較して425万人の増加(12.2%増)となったという。
横浜プロモーション推進事業本部横浜を訪れる人の数を増やしていくためには、様々な立場の人たちが「横浜の地域ブランディング」という視点を共有して、地域コミュニティが一体となった集客事業やプロモーション戦略を策定し、多様なメディアを活用したきめ細やかな情報発信が必要となる。
そのためには、地域や観光プロモーション関連の事業者ネットワークが持つ様々な資源を発掘・強化して、その魅力を内外に的確に発信するための新しい横浜オリジナルの仕組みをつくっていくことが望まれる。広報に係わる関係者の小さなコラボレーションからスタートして、広報担当者同士のつながりを強めて、横浜全体のブランディングに貢献する企画を共ににつくっていく――全国に横浜という街のファンをつくり来街者を増やすために、今そんな姿勢が求められているのではないだろうか。
久保孝広 + ヨコハマ経済新聞編集部