特集

「協働元年」を終え、実践のフェーズへ。
ヨコハマの「協働」ストーリー(2)

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■政策の創造と「協働」のための横浜会議

社会の成熟化に伴い、市民のニーズは多様化してきている。また、地方分権の促進で、各自治体がよりよい政策の実現を目指して競い合う時代が到来している。複雑化した市民のニーズに対し、行政機関だけで政策を考えて対応していくのは簡単なことではない。その一方で、市民や団体からは、実行だけでなく政策の企画や立案から関わりたいという意見も多く聞かれた。そういった機運の高まりを受け、「行政と民とが政策立案から協働する」ことと、「協働型社会」の実現を目指し2004年から始まったのが「横浜会議」だ。横浜会議は、公的サービスの向上に資する調査研究、市民生活の質の向上に資する調査研究を行っている研究者であれば、個人、団体を問わず、誰でも加入できる。

「コラボレーションが街を元気にする」 ヨコハマの「協働」ストーリー(1) 横浜市都市経営局 横浜会議

この横浜会議の一つの先駆性は、大学、NPO、民間企業など多分野の研究者・グループが横浜会議会員としてデータベース化され、ホームページ上で公開されることだ。地域の課題解決や政策形成に関心を持つ研究者や実践者の所在や、その取り組みの内容を誰でも検索することができる。

横浜市都市経営局政策部政策課主任調査員の中川さんは、「実際どのくらいの人が関心を持ってくれるのかは未知数でしたが、現在約120件の登録があり、昨年度の政策研究発表会の協働研究テーマ募集では39件の研究テーマが集まりました」と反響の大きさを語る。政策研究は、年に一度の政策研究発表会にて支援対象研究か否かの採択をされ、採択されると関係局区との協働研究が進められ、事業化へ向けた検討がなされる。昨年7月の第1回政策研究発表会で採択されたのは、「『暮らしを支える生活術マトリックスモデル』作成と市民力を活かした新システムの研究」(NPO法人市民セクターよこはま)と「自治体における産業政策としての知的財産政策の可能性」研究(NPO法人政策過程研究機構)の2件だ。この2件には申請の満額(計約400万円)の支援金が支給され、「知的財産政策の可能性研究」は17年度予算化され、経済局経済政策課との協働で「横浜型知的財産戦略推進事業」として事業化された。「採択されなかった研究の中にも地域金融の仕組みの提案など実現させたいものが多くありました。横浜は大都市だからこそ、市政や社会の課題に関心の高い人が多く、そのナレッジを社会化できる仕組みが求められていると感じました」と中川さんは語る。現在第2回政策研究会の協働研究テーマを募集している。

横浜市都市経営局 記者発表資料 第2回政策研究発表会:協働研究テーマを募集(pdf)
クリーンセンタービル 横浜市都市経営局政策部政策課主任調査員の中川さん

■支援センターの新たなスタート

横浜市が2000年10月に設置した、市民活動をサポートする「横浜市市民活動支援センター」。市民活動に関する情報の提供、相談・コーディネート、講座の実施や、各セクター間の交流促進も担っている。桜木町1丁目のクリーンセンタービルの4階・5階にあるこの施設は、4月から運営体制が一新した。市の外郭団体であった横浜ボランティア協会による運営から、市民活動実践者と有識者などからなる運営委員会がスタッフを雇用する公設民営体制に変わったのだ。前体制時からスタッフを務める、横浜市市民活動支援センター事務局次長の山田さんは、「今までの役割を引き継ぐということも大切ですが、変わっていくニーズに対応していくことも重要だと思っています」という。インターネットなどで簡単に情報が集められる時代に、センターを運営して市民活動を支援することにどういった役割が求められるのかを、スタッフも模索している。また、2004年度からは区役所が主体となって「区版・市民活動支援センター」の設置を進めており、現在4つの区ですでに開設、17年度には、さらに3区で始まる予定である。「市民活動を支援する機能の一部は、いずれ区版のセンターに移っていくだろうとは思います。しかし今は現実にニーズがあり、多くの方にご利用いただいています。ご利用いただく方の想いに応えていくことを大切にしていきたいです」と語るのは、4月から新たに就任した横浜市市民活動支援センター事務局長の吉弘さん。新人スタッフ3名と共に、新たなスタートは切られたばかりだ。

横浜市市民活動支援センター
横浜市市民活動支援センター 横浜市市民活動支援センター事務局長の吉弘さんと事務局次長の山田さん 横浜市市民活動支援センター

■新たな局面に入った共同オフィス

同じクリーンセンタービルの7階には、市民活動団体の自立や連携・交流を進めるために、市民団体にデスクスペースを提供する市民活動共同オフィスが4月1日にオープンした。共同オフィスは、当初、協働のあり方を研究するための実験・検証の場として、2002年10月に中区馬車道の旧富士銀行内に設立、初年度は14の市民団体が入居、第二期には新たな11団体が入居し、2004年の5月から10月にかけてはBankART1929馬車道ホールを舞台に「横浜市市民活動共同オフィス発・連続講座」が自発的に開催されるなど、顔が見える関係からの協働の連鎖が生み出されていった。2005年4月から旧富士銀行に東京芸術大学の大学院映像研究科が開設されることに伴い、過去2期で協働のあり方を検討した経験を基に検討が行われ、共同オフィスはクリーンセンタービルに拠点を移し、新しく自立と連携をコンセプトに選考された9団体が入居し、新たな位置づけで事業を継続することとなった。

「市民活動共同オフィス」9団体が入居しオープン

共同オフィスの管理運営団体であるNPO法人市民セクターよこはまの岡本さんは「管理運営団体として2年の蓄積があり、検証業務にもあたらせていただきました。その検証結果を反映させて、さらに進化した形で管理運営していくことをめざしています。ご期待ください」と意欲的に語る。行政側として共同オフィスプロジェクトを進めてきた市民協働推進事業本部協働推進課係長の中島さんは「協働のあり方を検討するなかで、自立や連携を支援することが協働の環境づくりになることが見えてきました。市民活動が活発になり、必要に応じて協働の具体的な取り組みを重ねていくことが大切だと思います」という。

市民活動共同オフィス 市民セクターよこはま
市民活動共同オフィス 市民活動共同オフィスの中 デスクスペースを活用する様子

■動き始めた「協働事業」

市民協働推進事業本部は、市民の意欲・発想・実行力が活きる協働の都市づくりをめざして策定された「協働推進の基本指針」を基に、市民活動団体や企業、地域団体など、様々な「民」との協働を進めるために、2年間と期間を区切って設置された事業本部だ。同本部は協働推進課と地域活動推進課から成り、「協働」を進める仕組みづくりに取り組んでいる。現在、市と市民活動団体等が協働で取り組む「協働事業提案」を募集中だ。前述の横浜会議は「研究・立案」だが、こちらはまさに「事業」。公益的で市民満足度が高まり、具体的な効果が期待できる事業の実施を前提として公募している。事業経費は1事業あたり約500万円を限度として市が負担する。昨年は111事業の提案があり、選考の結果、バリアフリーマップ作成やホームレス支援など10件が採択され予算化された。これら10の事業は今年度合計3533万4千円の予算で事業化される。市民協働推進事業本部協働推進課の長沢さんは「例えば失語症者のコミュニケーション支援事業など、事業化によって失語症そのものに対する社会認知が広がります。地域のニーズ把握をもとにして、市民と行政のノウハウの活用がうまく融合することによって効果を生みます」という。

市民協働推進事業本部 協働推進の基本指針 平成18年度事業募集

横浜市ではユニークな取り組みとして、協働事業提案と同時に、事業提案の審査員、事業の取り組みをリポートする協働リポーターも募集している。審査委員の任期は1年間で、有識者、福祉・まちづくり分野活動者と共に審査委員会を構成し、書類審査や公開プレゼンテーションにより、協働事業提案の選考を行う。協働リポーターは、横浜市職員と共に、市で取り組む協働の実践事例を取材し、ホームページ等による情報発信や「協働事例集」の作成を行う。市民や職員に対して協働をわかりやすくPRすることで、市民の参加意欲や職員の意識を高めようと、今年度初めて公募される。

協働事業提案制度モデル事業について 協働リポーターの募集

「協働」がどこまで達成されたのか、どのような成果が得られたのかを計ることは難しい。忘れてはならないのは、協働はよりよい政策を実現させるための方法であり、協働そのものが目的ではないということだ。市民と行政の双方が、どうすれば効果的な政策を実行できるのかを自分たちの問題として考えるときに、「協働というやり方がある」という意識が自然に浸透しているのが理想的な状態である。そのために必要なのは、お互いの長所短所をよく知り、率直に意見を交換しあえる信頼関係だろう。信頼という基礎を一度築けば、「協働」という言葉を意識せずとも協働体制が創れる。そんな理想形を目指す市民と行政両側からの「やる気」の高まりを、強く感じることができた。

吉本 紀子 + ヨコハマ経済新聞編集部

協働推進の基本指針 市民協働推進事業本部協働推進課担当係長の中島さん クリーンセンタービル
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