6月22日、あいにくの雨のなか、たくさんの人が施設を訪れ、「横浜みなとみらい万葉倶楽部」のオープニングセレモニーが開催された。日本ジャンボー会長で、万葉倶楽部社長の高橋弘氏は、挨拶にて「市長室に行って中田市長とお話ししたところ、実は市長は万葉倶楽部のファンで、町田の1号館にはよく来ていただいたとのこと。建設にあたり、市長として、また一人のファンとして、二つの視点から様々な注文をいただきました」と述べ、中田市長を紹介。中田市長は、「町田の1号館はよく知っていて、建物の中に一歩入ればすぐ『温泉』の異次元空間になっていることに感動しました。みなとみらいでは、外観は街にマッチしたものにしていただきたいが、同じように建物の一歩中に入れば和風の世界が広がる、そんなコンセプトでやってほしいと伝えました。このオープンにより地域の発展がより促進されることを期待しています」と祝辞を述べた。
「横浜みなとみらい万葉倶楽部」は万葉倶楽部にとって8番目の温泉施設で、地上8階建て、延べ床面積は約20,600平方メートル、事業の総予算は約80億円。その最大の売りは、都市型温泉施設でありながら、源泉から湧き出た名湯が楽しめることだ。同社所有の神奈川県湯河原町にある「湯河原温泉」と静岡県熱海市の「熱海温泉」の源泉から大型タンクローリーで毎日120トンのお湯を運搬する。一つの施設で二つのお湯を堪能できるのもこの施設ならではだろう。横浜港を一望する露天の石風呂、ひのき風呂、寝湯に広い大浴場、またサウナハーブサウナ、ハーブスチームサウナ、塩サウナ、黄土サウナ、あかすりと様々な趣向で日々の疲れを癒すことができる。屋上の展望足湯庭園はコスモワールドの観覧車コスモクロック21を目前に臨む絶好のロケーションで、ヨコハマの新たなデートスポットとして人気を博することは間違いないだろう。
横浜みなとみらい万葉倶楽部 「横浜みなとみらい万葉倶楽部」、6/25オープン魅力は温泉だけではない。同館は「至福の和の温泉空間」をコンセプトに、五感に訴える癒しにあふれた様々なサービスを提供し、訪れる人の多様なニーズに応える複合レジャー施設だ。婦人用の浴衣と帯は7種類の柄を用意、好きなものを選べるのが嬉しい。アメニティも一流品を揃え、化粧品メーカーからの試供品も自由に使える。また、ウェルネスも充実、指圧マッサージ、中国式足底健康法、タイ古式マッサージ、アロマエステティック、アジアンヒーリング、英国リフレクソロジー、ヘアーカット、ヘッドスパなど。まさに、リフレッシュするためのあらゆるサービスが揃っている。他にも、小さな子供が安全に遊べる「キッズランド」や「お祭りひろば」、ペットを預かってくれる「ワンワンハウス」と、小さな子供やペットを連れての来館にも気配りがなされている。
また、都心部に位置する同館は、ビジネスユースの面でも充実したサービスを提供している。全館で無線LANに対応、無料でインターネットができるネットコーナーもある。注目なのは、30台のパソコンを揃えたJOBセンター。数人が座れるプライベートスペースとなっており、インターネット、DVD、FAX、コピーなどビジネスに必要な機能を完備し、商談することも可能だ。格安で泊まれるキャビンや、無料で利用できるリラックスルームがあり、休日でも仕事から手が離せない人や、終電に乗り遅れた人にとってありがたいサービスとなっている。旬の食材にこだわった料理を味わえる食事処、和室・洋室の客室、大人数での宴会に対応した宴会場、家族水入らずで過ごせる家族風呂といった温泉宿泊施設としてのサービスとあわせて、あらゆる客層のニーズに応える施設となっている。
万葉倶楽部は1997年、東京・町田市に1号店をオープンして以来、このスタイルの温泉施設「万葉の湯」を相次いでつくってきた。同社は低価格写真現像で知られる日本ジャンボーの100%子会社。写真のデジタル化の波の速さを感じ、新たに温泉事業を立ち上げたのだ。「温泉地にお客さんが来ないなら、こちらから出向いていこう」という都会に温泉郷をつくるという逆転の発想で、スーパー銭湯や健康ランドとは一線を画した、本物志向の温浴施設を建設、現在の日帰り温泉ブームの先駆けとなった。事業の肝である温泉の湯を源泉から運ぶシステムは、日本ジャンボーの写真現像集配事業で蓄えたジャストインタイムの物流システムが支えている。
万葉倶楽部 日本ジャンボー「横浜みなとみらい万葉倶楽部」の企画段階から事業に参加している株式会社アクト企画室 代表取締役の増渕正明さんに話を聞いた。温浴事業開発をプロデュースしている増渕さんは、会社のある静岡県熱海市から横浜に一年間通いつめて街の特徴を調べたという。「横浜は"全国から若い人がやって来る街"というイメージが強いが、本当に一番多い層は実は違うんです。来街者のデータを見てみると、6割が横浜市民、神奈川県民で出すと7割以上に達し、地元の人が多数を占めている。また、世代も40代~60代で50%以上を占め、意外と年齢層も高い。これまで持っていたイメージとのギャップに驚きましたね」。
アクト企画室横浜には「無目的で人が来る街」という特徴があると増渕さんは言う。「横浜は"港"のイメージを中心にブランド化された街で、神奈川県よりも前に横浜のイメージが来る。銀座のようにイメージが人を呼ぶ街、人が特別な目的を持たなくても足を運ぶ街なんです」。しかし温泉は、そこに行きたいという目的をもって来る人が多い"目的施設"の要素が強い。通常は人を集める目的施設は都市部ではなく地代の安い地方につくるものだが、それをどう考えているのか。「近隣にはショッピングや観光施設がありレジャーの目的はもちろん、都心部だからビジネスマンの利用ニーズもある。周囲の施設とあわせることで、来街者の複合的なニーズに応えることができる街となる。それが都会に温泉郷をつくる意味なんです」。
また、"温泉"という言葉を前面に出さないことも重要な戦略の一つだ。「複合レジャー施設で大切なのは、どのような目的で楽しみたいかはお客さんが決めるものだということ。2つの源泉から運んだ名湯や露天風呂、景観がすばらしい展望足湯庭園といった温泉施設が一番の売りですが、それを押し付けてはいけない。マッサージやエステ、ヒーリングを堪能したい人、食事や宴会を愉しみたい人、ビジネス目的で宿泊する人、それぞれが満足できる施設を心がけています。だから、名前も"万葉の湯"ではなく、"万葉倶楽部"にしたんですよ」。
増渕さんは、横浜に来て、その都市景観のすばらしさに感動したという。「自然美という言葉があるなら、都市美という言葉もあるはず。リゾートの最大の特性は、その土地の景観です。横浜はみなとみらいのビル群、観覧車、横浜港というすばらしい都市景観を持っているのに、これまでその全ての魅力を堪能できる施設がなかった。360度の横浜の景観を見渡せる屋上の展望足湯庭園は、横浜の都市美を最も堪能できるものになったと自負しています」。ビル群が生み出すスカイライン、間近に迫る観覧車、一面に広がる横浜港の美しさは、一見の価値あり。時間帯はビルや観覧車のライトアップが始まる夕方から夜が一番のおすすめだ。
一方、「横浜みなとみらい万葉倶楽部」も横浜の都市景観を形作る施設の一つだ。建設の際には横浜市側から都市景観の維持をはじめ、様々な規制や要望があったと万葉倶楽部取締役統括部長の高橋眞己さんは語る。「スカイラインの維持のため、当初建物の高さ制限は21メートルだと言われました。それではあまりにも低いと交渉し、港湾局の制定する条件に沿う建物とすることで31メートルまで高くすることができました。中田市長や都市整備局都市デザイン室が重視したのは、建物の外観と夜景の美しさ。白っぽいビル群が並ぶみなとみらい地区と、赤レンガ倉庫をはじめ茶色を中心とする新港地区の中間に位置するため、みなとみらい側は白色に、新港側は茶色にと異なる趣になりました。ライトアップされたときに美しく見えるようにチューブライトを設置したり、船で海から見たときの夜景にも配慮するため、駐車場には中白色の蛍光灯を使わずナトリウム灯を使用しています」。
施設の一階には賑わいを創出する機能が求められた。そのため入り口前にはピロティを設けた。海風を感じながら歓談できるスペースとなり、2、3時間おきにイベントを開催する予定だという。また、2階の駐車場は、新港地区にペデストリアンデッキが建設された際には連結できるように考えて設計されているという。ごみを削減する市の政策にあわせ、生ごみを自家処理する施設も作った。「2003年の『みなとの賑わい特区』の制定により規制緩和が行われたという追い風はあったものの、中田市長、港湾局、都市デザイン室の3者との綿密なやりとりで時間がかかりました。しかしその熱意の大きさからは、街のブランド維持・向上で先頭を走る横浜の強さを垣間見ることができましたね」。
横浜市長 中田宏 公式HP 横浜市港湾局 横浜市都市整備局 都市デザイン室みなとみらい地区に"癒し"という新たな魅力を付け加える「横浜みなとみらい万葉倶楽部」。レジャーに来るファミリーや中高年、デートに来るカップル、ビジネスユースで使うサラリーマンと、あらゆる客層を取り込むそのビジネス戦略は、みなとみらいという街の包容力を向上させることだろう。平日に来街者が少ないみなとみらい地区では、施設間の連携を図り、街全体で来街者を増やしていくことが求められている。同館のオープンがみなとみらい地区の発展にどのような影響をもたらすのか、注目していきたい。