横浜の商業施設に変革の時
提供 三菱商事・ユービーエス・リアルティ|制作 サステナブル・ブランド ジャパン やなぎさわ まどか(文) 高橋 慎一(写真)+ヨコハマ経済新聞
ある種の美学を漂わせる街、横浜。地域住民の地元愛が強く、各地からの観光客も途切れない日本最大の地方都市にも、サステナビリティの兆しは明るく見えている。年末が近く、消費意欲の高まる時期に、ベイエリアのオープンモール「MARINE & WALK YOKOHAMA(マリン&ウォーク ヨコハマ)」を訪ねた。実はこの場所、再生可能エネルギー100%で運営し、クリスマスシーズンには廃材を活用したアイテムを出品するマーケットやオブジェクトを展示している。
2016年にオープンした「MARINE & WALK YOKOHAMA」は、歴史ある赤レンガ倉庫の隣にある商業施設だ。明るく開放的な雰囲気を放ち、足元を豊かに感じさせる植物の多さや、空を仰ぐオープンスペースなど、一般的なショッピングモールとは大きく違う。何よりも、港と敷地を共にしたシームレスな設計は、まるでそこだけ突然、小さくもおしゃれな街が出現したように訪問者を惹きつけている。
クリスマス時期の商業施設といえば、華やかなイルミネーションやホリデーらしい装飾で消費意欲を加速させるが風物詩だが、例年MARINE & WALK YOKOHAMAでは、流木やトタン材など廃材を活用したクリスマスツリーを中央に飾ったり、さらにそこで使い終えた資材は施設内で再利用するといったサステナブルな施策を続けている。コロナ禍となった2020年は、どのような冬の装いでゲストたちを迎えるのだろうか。
「今年の冬は『Merry Mellow Xmas』というテーマを掲げ、あえて明るく優しいメッセージをお届けすることにしました。大変な年だったからこそ、MARINE & WALK YOKOHAMAにいる時間を、前向きで楽しいひと時にしていただけたらいいな、と思っています」
そう答えてくれたのは、運営元である三菱商事・ユービーエス・リアルティ(東京・千代田)の高橋早紀さんだ。今年のクリスマスデコレーションには、サステナビリティに加えて、施設内で楽しめるアートを導入することにした。米国・カルフォルニアで活躍する編み物アーティストのロンドン・ケイ氏に依頼し、普段は大人たちもゆっくり過ごせる落ち着いた雰囲気のMARINE & WALK YOKOHAMA内に、あえて華やかな色合いを増やした。手編みというハンドメイドの温かみも、廃材を生かした背景が引き立てている。
「期間中の週末は、クリスマスマーケットとしてオープンエリアに全14店舗が出店しています。廃材を活かしたアートピース、雑貨や世界の絵本、アーティストによる展示販売、リースやミニツリーといったグリーンの販売など、いずれも持続可能性に考慮した季節のお買い物をお楽しみいただけます」(高橋さん)
さらに今年のMARINE & WALK YOKOHAMAには、大きな意思表明が形にされていた。2020年8月、新電力サービス「まちエネ」に切り替え、施設全体の電力需要を全て再生可能エネルギーでまかない始めたという。
これは化石燃料を使用していない電気という環境価値が証明される電力で、一年ごとにカーボンオフセットされる。施設全体とは文字通り、木々に絡まる季節のイルミネーションも、各テナントが使う照明も、従業員が過ごすバックヤードも含めた、MARINE & WALK YOKOHAMAの全電力のCO2排出量が実質ゼロであることを意味している。
事業で使用する電力の全てを再生可能エネルギーとする国際的イニシアティブ「RE100」に準じた、非常に大きな企業としてのコミットを示したことになる。この電力切り替えにあたりテナントに対するコスト増に繋がらないように工夫を重ねた。将来的には全国の他の商業施設も同様に切り替えを目指している。
「MARINE & WALK YOKOHAMAのサステナブルなアクションとして、やっとスタートラインに立てたと感じています。施設全体が持続可能な場となるためには、私たちだけではなく、テナント企業の皆様と一緒に取り組むことが非常に大切だと思いますし、そのためにも取り組む姿勢を見ていただくことが必要です。また、RE100に舵を切ったとしてもテナント企業の皆様にコスト負担にならないようにと考慮し、私たち全体にとって持続可能であるための工夫と交渉を続けてきました」(高橋さん)
こうした思いを聞くと、イルミネーションの明かりが小さくも力強く感じられてくる。しかし実は、MARINE & WALK YOKOHAMA内のどこにも、その電力が再エネ由来であることは記されていない。あくまでも自然にさりげなく、ここを訪れる人たちは意識しないうちにCO2排出ゼロ空間に身を置くことになる。
「すでにアパレルメーカーや一部の業界では、サステナビリティという考え方を反映したものづくりが始まっています。そうしたメーカーやブランドの製品を選ぶお客様が、より快適で長期的にお買い物を楽しめるために私たちができることは、意識の高いテナントを迎え入れられるための努力です。MARINE & WALK YOKOHAMAとしての思いを取り組みで示すことで、ご賛同いただける事業社の皆様とは協働できる可能性が増えるでしょうし、ご来館されるお客さまには、MARINE & WALK YOKOHAMAを快適な場所として長く楽しんでいただける。そんな積み重ねの結果、サステナブルな場所に人が集まる、という循環を実現したいです」(高橋さん)
MARINE & WALK YOKOHAMAがRE100に踏み切ったことで、商業施設の多い横浜にどんな影響が期待できるだろうか。
「将来的には、お隣のハンマーヘッドや赤レンガ倉庫などとも協力し、地域でサステナブルな取り組みができたら良いと考えていますが、これからですね。横浜駅に近いベイクォーターや、来春には桜木町からのロープウェイもできる予定ですし、横浜全体で何か良い形の協力ができたらいいですよね。MARINE & WALK YOKOHAMAがもっと地域に根付いて、長く皆様に親しんでいただけるように努めることも、サステナブルであるために大切だと考えています」(高橋さん)
近隣施設との連携としてはすでに、赤レンガ倉庫と共に参画する音楽イベント「Greenroom Festival」や、屋外シアター「シーサイド シネマ」といった、例年の人気イベントも定着している。2020年は新型コロナウィルスの影響を受けたものの、次の開催を望む声も絶えない。また、行政との協働によって、海に面したプロムナードで行うマリンヨガは開催が継続されており、環境と共に健康意識の高いリピーターも少なくない。
さまざまな理由から社会の分断が問題視されるなか、できることに実直に継続する場のおかげで守られているコミュニティも確実にあるのだ。ほんの一年前には想像できなかった現状下で、最大の努力を続ける今だからこそ、あえて10年後のMARINE & WALK YOKOHAMAに向けた思いを聞いてみた。
「世界的に状況が変化する中で、買い物への意識も、店舗を出す企業の意識も、持続可能な方向に変わっていくと思うので、ずっと選んでもらえる場所でありたいです。今、ESG投資やSDGsも話題になっています。本来はそれがあるべき姿だと思いますし、いつかサステナブルが『当たり前』の社会になれたらと願っています。」(高橋さん)
横浜が世界に港を開いてから160余年。また再び、環境対策の先駆けとして横浜から新しい時代が始まることに期待したい。